諏訪簡易裁判所 昭和29年(ハ)95号 判決 1956年4月18日
原告 小松純義
被告 河村高次郎
主文
被告は原告に対し金六万九千四百十円及びこれに対する昭和三十一年二月二十二日から支払のすむまで年五分の割合による金品の支払をせよ。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は主文第一項に限り原告において金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事 実<省略>
理由
第一、当事者間に争のない事実
被告は古物商を営んでいる。被告の被用者である中村暉夫は被告所有の貨物自動車を運転中、昭和二十九年十月七日午前八時頃国道二十号線の長野県諏訪郡下諏訪町菅野町五千四百六十六番地高木明雄方附近において原告と右自動車とが衝突し、原告は負傷した。(以下この事故を「本件事故」といい、この場所を「本件現場」という。)
被告はかたわら青果物商を営んでいる。中村暉夫は本件事故発生当時被告の命を受けてその荷物を運搬中であつた。(後段の事実は被告の明らかに争わないところである。)
第二、本件事故における中村暉夫の過失について
成立に争のない甲第八、九号証及び第十一ないし第十三号証証人立道善一、市川嵩進、出羽信雄、中村暉夫、安原三郎の各証言並びに原告本人尋問の結果(ただし、以上の各証拠の記載又は供述中後記の信用しない部分を除く。)を総合すると、次の事実を認めることができる。
「原告は当時雨がつぱをかぶつて自転車に乗り本件現場を諏訪市方面に向つて車道の左端(原告の進行方向に向つていう。以下同じ。)から約一米の処を進行していた。中村暉夫は被告所有の貨物自動車を運転して時速約十六、七粁の速力で同一方向に進行していたが、本件現場において原告に追いつきながらこれに全く気付かず、従つて原告の近くで警笛を鳴らさなかつたのみでなく、貨物自動車と車道左端との距離を約一米半に保つたままで原告を追い抜こうとしたので、貨物自動車の左側後部を被告の身体又は自転車に衝突させた。このときの模様を見ていた者はいなかつた。国道二十号線の本件現場における幅員は車道のみで約五・六米あり、当時通学途上の小学生が多数道路右側を通行しており、雨も降つていたが、道路左側を運転するには何の困難もなかつた。」
甲第十二号証の記載、証人出羽信雄及び原告本人の供述中この認定に反する部分はいずれも信用することができないし、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
そして中村暉夫の運転する貨物自動車が原告の身体又は自転車のどの部分に当つたかについては適確な証拠がなく、甲第十一ないし第十三号証の記載、証人中村暉夫、安原三郎の各証言及び原告本人尋問の結果中にはこの点に触れた部分があるがいずれも確実な根拠に基づかない推測であるから到底採用することができない。しかしながら、この点が明らかでないとしても、前認定のような事実、特に原告が本件事故発生当時幅員約五・六米の道路の左端から約一米の処を進行していたこと、中村暉夫が全く原告に気付かずにその傍を通り過ぎたこと等からみると、同人に運転上の過失があつたものと認めるに十分であるといわなければならない。
第三、原告の負傷の程度及び損害について
成立に争のない甲第一、二号証及び第四、五号証、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六、七号証並びに原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
「原告は貨物自動車に追突されて車道上に転倒した際右大腿骨不全骨折及び右膝部打撲傷の傷害を負い、さらにこの負傷から外傷性右下肢運動神経麻痺をおこし、負傷後昭和三十年一月七日まで作業を休んだ。原告は当時一日当り約八百円の純益をあげ得る下請の仕事が継続的にあつた。
原告はこの負傷による治療代として高野接骨院に対し金千円を、市瀬外科医院に対し金三千六十円を支払い、又自転車の修理代として藤森自転車店に対し金三百五十円を支払つた。」
原告は当時一日当り約千円の収益があつたと主張するけれども、八百円をこえる部分についてはこれを認めるに足りる証拠はなく、又甲第七号証は昭和三十年十月頃の作業に関するものであるから本件事故による休業当時における原告の収益については何ら証拠とならないことが明らかである。そして前認定の事実からみると、原告は少くとも七十日間の作業を休んだものと推測されるから、原告は本件事故による休業の結果少くとも金五万円の得べかりし利益を喪失したものと認められる。
原告は前記の負傷によつて精神的苦痛を被つたことは明らかであり、当事者双方の職業、原告の収入、負傷の部位程度等諸般の事情を考慮すると、慰藉料は金一万五千円が相当と認められる。
よつて得べかりし利益を喪夫したもの、治療代金四千六十円、自転車の修理代金三百五十円及び慰藉料金一万五千円、以上合計金六万九千四百十円が本件事故によつて原告の被つた損害といわなければならない。
第四、被告の責任について
中村暉夫は被告の被用者であり、しかも本件事故発生当時同人は被告の命を受けてその荷物を運搬中であつたから、被告は民法第七百十五条により原告に対し前記損害金六万九千四百十円及びこれに対する最後の訴の変更をした口頭弁論期日の翌日であること記録上明らかな昭和三十一年二月二十二日から支払のすむまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて原告の請求は以上の限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用は民事訴訟法第九十二条本文を適用して全部被告に負担させることとし仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮脇幸彦)